うつと筋トレと時々レザークラフト

マイノリティ入門

僕とうつ病のあれこれ

やさしい君へ。

 

東京のはずれ、暗くて狭いおんぼろアパートで自分の異変に気が付いた時から今まで、君は僕の意識のすべてでした。

 

あの時、僕の精神は毒に侵されていました。そして君は、その毒を必死に追い出そうとしてくれました。黙ったり、泣いたり、叫んだり、壊したり。その方法が正しいのかはわからないけど、それはとにかく必死に、僕を守ろうとしてくれました。

 

おかげで、僕の中の毒は1年ぐらいで消えてなくなったように感じました。生きる意欲もだんだんと回復してきて、社会復帰に挑戦することもできました。

 

でも、僕が前に進もうとするたび、君は僕の前に立ちはだかるように、いや、僕の足を引っ張るようにして…。僕には、君が僕の順調なこれからを邪魔しているように感じました。

 

そしてそんな君を、僕は鬱陶しく感じるようになりました。足や身体にまとわりついて離れない君を、お荷物だと思いました。

 

何度も何度も、君を振り払おうとしたけど、君は僕に覆いかぶさるようにして…僕の歩みを止めました。そのうち僕は、前に進まないのなら、ここで一生、止まってもいいと、そんな風に考えるようになりました。そして、僕が立ち止まった原因はすべて君にあると、そう思いました。

 

鬱屈とした思いを抱えたまま、僕はまた、その場を動けなくなりました。毒はもう抜けているはずなのに。…お前のせいだ。お前がすべて悪いんだ。

 

その時でした。君の悲しげな顔が僕の視界に入ってきたのは。とても悲しい顔でした。僕のことを心配して、泣いているのでした。

 

「君がまた無茶をして、あの時に戻ってしまうのが怖い。僕はどうしてもあの時には戻りたくない。君にも戻ってほしくない。暗くて辛くて何の希望もない、あの時に」。君は言いました。

 

君のか細い声を聞いたのは、これが初めてでした。

 

あの時、一番近くで僕の病と闘っていた君は、その恐ろしさを誰よりも知っていました。僕の歩みを邪魔をしていたんじゃない。少し強引に歩みを進めようとする僕を止めていたのは、君のやさしさでした。

 

やさしい君。僕がまた病んでしまわないように、ずっと守っていてくれたんだね。

 

今まで気が付かなくてごめん。ありがとう。でも、もう大丈夫だよ。

 

あの時みたいに無茶はしないし、運動だってずっと続いているし、食事だって管理して作ってるんだ。睡眠時間もばっちり7時間。それに、心強い言葉で支えてくれる家族や仲間だっている。僕は僕を前よりもずっと大切にするよ。

 

これからは、僕が君を背負って生きていく。僕が行き過ぎたときは、君が耳元で注意してくれ。

 

一緒にいこう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

我ながら気持ち悪いタッチで仕上がりました。

 

「君」はうつ病を発症している時の自分、もしくは僕の中のうつ病そのもの、あるいは僕がうつ病だと思っていたものです(ややこしくてすみません)。なんとなく擬人化してみたくて、君に手紙を書いてみました。名前を付けてみてもいいかも。

 

僕は今まで、うつ状態の自分のことが嫌いでしょうがなかった。うつ病の三文字を自分の人生から排除したかった。けど、これが自分の身体を守る働きだと気が付いた時、「君」を受け入れたい気持ちになり、「君」に対する感謝の念すらわいてきました。

 

社会復帰もまだ道半ばですが、僕はこれからこの病とともに歩んでいきます。支えてくれる家族と仲間に感謝。

 

この病と闘うすべての人が、どうか自分を嫌いにならず、否定せず、自分の人生を生きてゆけますように。